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高尾にはそれがどんな仕事なのかよく判らなかったが、自分も足尾銅山を初め全国各地の鉱山を渡り歩いた身。山の話でひとしきり盛り上がり互いに持参した酒や肴でいい気分になった処で急に上山が言い出した。
「君はなかなか話の判る男だ。どうだろう何日間か俺の仕事を手伝ってくれないか?」
突然の申し出に困惑する高尾を見て尚も付け加える。
「報酬は充分に出す。正し条件がいくつかある」
高尾は思わず聞き返した。
「条件? なんですそれは」
「先ず仕事の目的と行く場所を聞かない事。そして必ず俺の指示に従うこと。どうだ。守れるか?」
高尾は暫し考えた。実家の用はそれほど大事なものではない。
生来好奇心旺盛な高尾は充分な報酬を貰えて尚且つ自分の好奇心を満たすこの依頼を受けることに決めた。
「いいでしょう。お伴させて頂きます」
返事を聞いた上山は相好を崩し持っていた盃を高く掲げ叫ぶ。
「我々の前途に乾杯だ」
三
翌早朝上山と宿を出た高尾は東海道線を使い静岡迄出てそこから長野へ行く長野電鉄に乗り換えた。
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