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2月14日、バレンタインデー。
日本では、「女子が好きな男子にチョコレートをあげる」行事である。チョコレート会社の陰謀によりこのような行事になったと噂されているが、ともかくバレンタインは恋の行事であるのは間違いない。そんなバレンタインだが、現在の日本では好きな人だけでなく友達にもチョコレートをあげる「友チョコ」、本命ではない人にもチョコレートをあげる「義理チョコ」なるものが存在する。
この教室でも、チョコ交換は当たり前のように行われていて、何だか不思議な光景のように思える。
そんなことを考えていると、友達がこちらにやってきた。
「はい、チョコあげる」「どーぞ!」
「ありがとう」と返し、もらったチョコを鞄の中にしまう。
「今日持ってきてなくて、ホワイトデーの時でもいい?」
「「もちろん!」」
友達はもうチョコをほとんど配り終えたらしく、そのまましばらく一緒に喋り続けていたがふと時計を見て気付いた。
約束の時間だと。
「ちょっと出てくる」
「りょーかい!」「行ってら!!」
ずっとポケットに入れていた包みの感覚を確かめながら、階段を駆け上がる。待ち合わせ場所として指定したのは屋上。息が上がっているのは単なる息切れか、それとも……。
――この行事に自分が積極的に参加することになるとは――。
屋上に続く扉を開けると、待ち人はそこにいた。
「おまたせ」
心なしか声がかすれている気がする。
「全然待ってないよ」
振り返った姿を見て、――眩しいな――、と感じてしまうくらいには恋に落ちてしまっている。いつからかは思い出せないけど。
二人の間の距離が徐々に縮まっていく。自分の身体がスローモーションのように動く。心臓が落ち着かなくて、自分が今からしようとしていることを今すぐにでもやめて教室へ帰りたい気持ちがだんだん増していく。
それでも、――チョコレート会社の陰謀であるかもしれないこの行事に乗っかってまで伝えたかった気持ちは――。
しばらくの静寂ののち、手に持っていた包みを差し出して、告げる。
「好きです」
「ありがとう」
そう言って、彼女は笑った。
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