自覚は唐突に

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 長机が二つだけ向かい合わせに置いてある、小さな文芸部室。  活動といっても、文化祭の合同誌作成以外は特にまとまってすることもない。各々気の向いた時に来て、本を読んだり執筆したり、菓子をつまみながら喋るだけの時もあるという、何とも緩い部活だ。  そんな部室に、今日は俺と浜田だけ。他に人がいれば会話もするが、二人だけでしゃべることはあまりなかった。浜田も斜め向かいの席で持参していた雑誌を読んでいたと思っていたが、急にどうしたというのか。  もう一度浜田の顔を見ると、何かを期待するように身を乗り出し、目を輝かせている。この様子では要望が通るまで、ちょっかいをかけてくるだろう。俺は息を吐き、一番邪魔な位置にあった指を選び掴んでどかした。そのまま本に視線を戻したが、浜田が妙に静かだ。まだ何か言ってくると思っていたのに。怪訝に思って顔を上げると、浜田は間抜けに口を開けて固まっている。俺と視線が合うと、肩をはねさせ挙動不審に視線をさまよわせた。 「どうしたんだ、お前」  さすがに心配になり声をかけると、急に頭を九十度に下げ、右手を差し出してきた。   「まずは小指からでお願いします!」 「……ほんとに大丈夫か」  意味が分からず、俺は本気で頭の心配をする。  浜田は口をわななかせて何か言いかけたが、「帰る!」と叫び机の上に置いていたカバンをひっつかむ。結構な勢いにどこかをぶつけたような鈍い音がしたが、気づいていないのか走って出て行った。
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