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僕らはそれからも順調に2位以下のクラスを引き離した。しかし20番目以降の生徒たちは、どのクラスも俊足の生徒を揃えている。なので、後半になるにつれて、差はそれほどひらかないことが予想された。
いよいよ僕の番が近づいてきた。順位は1位だが、2位との差は先程からあまり変わらない。このまま僕にバトンが回って来そうだ。
ちらりと隣の生徒を見る。引き締まった身体に、がっしりとした両足がついている。やばい。見るんじゃなかった。
僕は自分の右足を見た。今では特別な樹脂が金属部分を被い、一見普通の足に見えなくもない。ただ、明らかに筋肉はなかった。当たり前だ。これは人工物なのだから。
僕は自分を落ち着かせようとした。しかしダメだった。今までの人生の中に、こんな時の経験値がなかった。こんなに切羽詰まった場面なんて、僕には一生来ないと思っていた。
29番目の生徒にバトンが渡った。僕らのクラスは陸上部の山形くんだ。クラスの全員から歓声が上がる。山形くんは颯爽とグラウンドを駆け、2位の生徒との距離を更に引き離した。
スタートラインに立つ僕に向かって、一心に駆けてくる。それもすごいスピードで。そして僕にバトンを渡した。
「自分を信じて、行け!」
最後に山形くんは僕にそう言った。僕はバトンを受け取り、右足を一歩踏み出した。
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