さようなら

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 入院して3ヶ月。仮の義足を作ると、僕は退院を余儀なくされた。それまで何とか入院費を工面していたが、それ以上の入院費を払えなくなったのだ。  僕は来たばかりの慣れない義足を履いて、ぎこちなく歩きながら、病院を後にした。切断から3ヶ月での退院は異例だった。  主治医の先生や看護師たちは、まだ入院の必要性を訴えたが、母はそれに耳をかすことなく退院を決めた。先立つお金がないのだ。そして僕の権限も。僕は母の言う通り、ゴミ屋敷に戻ることになった。  本当はもう少し入院していたかった。家にいるよりも、病院生活の方が快適だった。3食の食事、適度な運動、そして年の離れた友達。僕に必要な全てが揃っていた。  16歳の僕にとって、母の言う事は絶対だった。あの家の光景、匂い、空気が思い出され、僕は少し吐き気を催した。でも何もできない。僕は自分の無力さを呪った。
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