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リナは雨の日が嫌いだ。
特に裏山沿いの道はダメ。舗装がデコボコな上に水捌けも悪いから、雨が降ると水たまりが沢山できるのだ。
本当は別の道を通りたいんだけど、PTAが決めた指定通学路になっているから、登下校はそこを通らなきゃいけない。
お母さんの話だと、リナは小さい頃に水たまりで溺れかけたことがあるらしい。
買ってもらったばかりの真新しい長靴とレインコートを着て、はしゃいで水たまりで遊んでいて、足を滑らせた。
“たかが水たまり”なんて馬鹿にしちゃいけない。赤ん坊は水位が10cmあるだけで溺死することもあるというのだから。
リナには溺れかけた前後の記憶はないけれど、母親が繰り返し語る内容は毎回同じで、いつしかそれが自分の記憶なのか母親のものなのか、よくわからなくなっている。
どちらにしても、今でも大きな水たまりは苦手なのだ。薄暗い雨の日の水たまりはアスファルトの底が見えず、落ちそうな、吸い込まれそうな感覚がして恐ろしい。
だから、その噂を聞いたとき恐怖以外の何物でもなかった。
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