借り物競争

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なんだか申し訳なくなった俺は話題を変えてみることにしてみた。 「おばちゃん、もういいよ。だったらさ、ランチャームって知ってる?こちらの女性が探しているんだけど……」 隣でお辞儀をしている美穂さんを紹介すると、おばちゃんはキョトンとして小首を傾げ可愛らしい仕草をする。 これもダメか、と落胆したところに、 「おい。今、なんつった?もっかい言ってみ?」 背後からおじさんのダミ声が響いた。 「ランチャーム、ですけど……」 「そうそう、それ!ランチャームだ!うちの店にたくさんあるぞ」 振り向けば、そこには日焼けして浅黒い肌の胡麻塩坊主頭のおじさんがいた。 「その人はねぇ、たっちゃんっていってね。お弁当屋さんをやってんのよ」 借り物競争だろ?ついてきな!たっちゃんはそう言うと、さっさと歩いて行ってしまった。 八百屋のおばちゃんにお礼を言って、俺と美穂さんは慌ててたっちゃんの後を追った。
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