アールンドの岸辺

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 翌朝一番で再び協会を訪れたぼくは、運んできた壺をカウンターへ置いた。  返却を受け付けてくれたのは偶々、最初に会った羊角の女性だった。 「いかがでしたか?」  と、相変わらずてきぱきした調子で返却書類に書き込みながら言う。ぼくは微笑んで答える。 「素晴らしい仕事でした」  でも、おそらくもう二度と、こうした妖精を借りることはないだろう。  ありがとうございました、という凛とした声を背中に受けながら、ぼくは協会の建物を出た。初夏の日差しが燦々と降り注ぎ、大通りの石畳をすばらしく鮮やかに照らしていた。ぼくの街の、いつもの歩き慣れた大通りである。ぼくはゆっくりとひとりで歩んだ。並木が作り出す木陰は涼しく、世界は輝きに満ちて見えた。  それら調和した世界の中で、ぼくはなんだか不意に、ぼくひとりが借り物のように不釣り合いなものに思えてならないのであった。
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