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愛した君
雨が降ると、俺はいつも君の顔を思い出す。
君の、とても苦しそうな笑顔を。
だから梅雨になると毎日のように君の顔を思い出す。
あの時、君は言ったよね。
「あなたは私には勿体無い。もっといい人が居るよ。」
突然降りだした雨を逃れるために、散歩していた公園の東屋に駆け込んだ。
濡れた君にハンカチを渡し、濡れて少し寒そうに見えたので羽織っていた俺の上着を肩に掛けてあげた。
ありがとうと優しく笑ったよね。
でも少しの沈黙の後、君は突然そう言った。
「どういう意味?」
よく分からなくて、俺は聞き返した。
君の瞳から、涙が零れ落ちた。
「ごめん、他に好きな人が出来たの。」
俯きながら大粒の涙を流す君。
今になって思う。
何で、君が泣いたの?
泣きたいのは、俺のほうだった。
君のことが大好きだった。
俺の片思いで、色んなアプローチをしながら意を決して告白をし、手を握り返して貰った。
飛び上がるほど嬉しかった。
それから、大事に大事にしてきたつもりだった。
君に沢山の愛を伝え、出来る限りのことをしてきたつもりだった。
君はいつも俺の隣で笑ってくれていた。
ありがとうって感謝される度に心が満たされた。
貯金が出来たらプロポーズをすることまで考えていた。
君の望むことは全て叶えてきたつもりだ。
何故、他に目が行ってしまったのか、本当に理解が出来なかった。
「え、何で?俺の、何がダメだった?」
その時の俺の顔は酷い顔をしていたと思う。
絶望に突き落とされ、この世の終わりのような顔をしていたかもしれない。
「悠里くんは何も悪くない。私が悪いの。」
「どういうこと?何か気に食わなかった?ごめん、直すから。何がダメだったか言って?」
「違うの。悠里くんは何も悪くない。私がいけないの。」
「分からないよ。教えてよ、何で?」
言葉を濁す君に、初めて少し苛立ちを覚えた。
君は未だに涙をこぼしている。
「俺のことを気遣ってそう言ってるんでしょ?俺、怒ったりしないから。何でも言って?直すから。」
君は、首を振った。
「そういうところなの。悠里くん、優しすぎるんだよ。何でもしてくれて、何でも気づいてくれて、何でも受け入れてくれる。正直、怖いの。何を考えてるのか分からなくて。一緒にいることが怖いの。ごめんね。私には勿体無さ過ぎるの。もっと、悠里くんにふさわしい人が居ると思う。だから、別れて欲しい。」
優しくすることの何がいけないのだろう。
してあげたいことをしてあげることの何がいけないのだろう。
俺は、君を幸せにしたい。
それしか考えていなかった。
本当にそれ以外何も考えていないのに、分からないと言われることが分からなかった。
でも、君が俺といる事が怖いと言うのなら、君を苦しめないために別れてあげたほうがいいと思った。
「分かった。」
たった、その一言で俺たちは終わった。
大好きだった君との3年間、本当に幸せだった。
会えることが、傍に居てくれることが、笑ってくれることが幸せだった。
君は、ごめんと謝り、最後に好きになってくれてありがとうと笑った。
とても苦しそうな笑顔だった。
でも、見たことのない笑顔ではなかった。
君は時折その笑顔を見せていたのだと、その時初めて気づいた。
君はずっと苦しんでいたんだね。
ごめんね、気づいてあげられなくて。
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