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 ケンちゃんは再び前髪を掻き上げた。普段は厚い前髪に隠されている白い額が現れる。髪の生え際にぽつんと一つ黒子があった。 「お試しだから耳だけど。本当は脇の下じゃないと正確には占えないんだよ」 「脇!」  ほこりと生乾きのぞうきんみたいな臭いが充満する空間で、思考の追いつかない非日常が次々に塗り重ねられていく。 「脇の下にはね、アポクリン腺っていう汗腺があってね、そこから出る汗が特別なの」  饒舌に語るケンちゃんの背中と、私の青白い顔が鏡に映っている。ひんやりとした冷気が足元から這い上がってきて、ガサリとダウンコートが鳴った。 「その汗がその人を丸裸にするんだ。こんな経験をしてきたとか、こんな考え方をするとか、僕はぜーんぶ味で分かるの」  んふふと笑って、再び手を伸ばしてくる。
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