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 専務は両手で持った湯飲み茶碗にふうと息を吹きかける。 「私も何度か行ったことあるけど、会ったことないんじゃないかしら。覚えてないけど。その痴漢、可愛い顔してるって話だから、みんなコロっと騙されたみたいよ。でも物とかお金とか盗ってた訳じゃないみたいだし、すぐに釈放されるだろうって」  捲し立てるように一気に喋って、息継ぎするようにずずずとお茶を啜った。 「怖いわよね、こんな小さな町で。いくら釈放されたってその子、もうこの町にはいられないわよ。可哀想だけど自業自……」  そこで電話が鳴ったので、私は受話器を持ち上げる。専務は首を横に振りながら、もう一度お茶に口を付けた。  ――ココアさんは実家暮らし。そして彼氏がいない。当たってる?  あの場の雰囲気に飲まれて一瞬でもすごいと思ってしまったけれど、よくよく考えればそんなのは占い師じゃなくても容易に想像できることだった。夜のコンビニでお弁当を買わないとか、薬指に指輪が無いとか。
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