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「結花ちゃん。名古屋に行ったら、皆にお土産買ってきて頂戴よ。ほら、小出さんにもクリームのお礼とか」  専務は早速、名古屋名物を指折り数えている。感心する程に現金な人だ。 「分かりました」 (狭いコミュニティーにはもううんざり)  二十時以降も開いている店がいくつもある場所に、電話番号もちゃんと十桁で書かれている場所に行ってみよう。 (まずはそこから)  増えた選択肢の先に、きっと何かが待っている。 (甘い汗だってかいてみせるわ)  汗占いだなんて信じないけれど、汗に味があるっていうのは少しだけ――本当に少しだけ理解できる。緊張して嫌な汗がでるのだって、感情が大きく影響されているからな気がするもの。 (ケンちゃんにはこれっぽっちも同情しないけどね)  四角い窓の外、トタン屋根から真っ直ぐに飛行機雲が伸びていた。 了
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