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俺は背が高い方だが、そんな俺よりも頭ひとつ出ている大きな男だった。
鍛え抜かれた逞しい体つきに、艶のある黒髪、顔は整った色男で、明らかにリズベルトの好きそうな容姿だ。
平凡な顔、茶髪に薄茶の目でこれといって特徴のない俺からすると、見るだけで劣等感が湧いてくるムカつく顔の男だった。
「おいおい…俺が言うのもナンだが、よくあんな男の恋人やっているな。言い訳をさせてもらえば、向こうから今フリーで寂しいから相手してくれって誘ってきたんだ」
「あぁ…それ……」
知っている、夢にまで出てくるくらいよく知っている台詞だ。
リズベルトは男を誘う時、そうやって話しかけるのだ。一年前、俺もそうやって声をかけられて、寂しそうに目を潤ませる姿に心を奪われたのだ。
「俺も最初は断ったが、酔っていたのか相手をしてくれないとここで裸になるとか訳の分からない脅しをかけられて、まぁ…、見た目はあの通りの美貌だからな。一夜だけならいいだろうと誘いに乗ったんだ。俺も遠征から帰ってきたばかりだし、発散できるなら好都合だった」
心当たりがありすぎて、俺は頭を抱えて崩れ落ちた。
それもリズベルトが使う手だ。あの男、面倒だからってこうも同じ手を使うとは許せない!
体は怒りでぶるぶると震えているが、心は悲しみの方が大きくて、それがぽろぽろと涙になって顔を濡らしていた。
鼻水を垂らしながら泣きじゃくる俺を見ながら、恋人の浮気相手の男は困った顔でため息をついた。
俺だってなんでこの男の前で号泣しているのか分からない。
泣きながら俺の頭の中では、リズベルトととの日々がずっと走馬灯のように回っていた。
ハミルトン王国には青き龍と呼ばれる、選りすぐりの精鋭を集めた王国第一騎士団と、赤い狼と呼ばれる、青き龍に続く強者が集められた第二騎士団がある。この、二つの騎士団が中心になって王都と周辺の領地を守り、長き平和を維持していた。
一年前、俺は平民上がりの騎士だったが、実績と実力が認められて第二騎士団に所属することになった。
ずっと地方の部隊で働いていて、王都に来たのは初めてだった。知り合いも誰もいない中、話しかけてきてくれたのがリズベルトだった。
リズベルトは王国の事務方で働いていたが、騎士団の予算や日程調整の担当で、よく騎士団の棟を訪れていた。
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