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ビッチ姉妹の話⑤
「………っごめんなさい……」
泣きながら私の腕時計を眺める隼くんの頭を、私は思わず撫でていた。
「どうしたの?何かあった?」
努めて優しい声を出して、隼くんの話を聞くことにした。
「僕……こんなに嬉しい誕生日は初めてで……」
止まらない涙を手で拭いながら、隼くんはぽつりぽつりと話してくれた。
「今年に入ってから……毎日のように死ねって言われてて……生まれてこなければよかったとか、今すぐ死んでも誰も悲しまないとか…ずっと言われ続けてたから、自分でもそうなのかなって思ってた……」
聞いてるだけで胸が締め付けられる告白に、私は何も言えなかった。
「だけど、こんなに僕の誕生日をお祝いしてくれて…こんな嬉しいプレゼントまでくれて……僕は、生まれてきてよかったのかもって……久しぶりに思えた……」
涙をためたまま私の目をしっかりと見つめる。
その顔には、心からの安堵と喜びが滲み出ていた。
「ありがとう菜摘さん。僕、今日が人生で一番幸せだよ」
涙を拭って、美しすぎる笑顔で告げる隼くん。
私は思わず、隼くんを抱きしめていた。
「……え…菜摘さん…?」
驚き息を止める隼くんに構わず、私は更に強く抱きしめた。
力を込めれば込めるほど、隼くんへの愛しさは増すばかりだった。
「隼くん……私は、この世で隼くんが一番好き……」
口をついて出た本音に、一瞬だけ体が熱くなった。
だけど隼くんは、そんな私以上にその言葉を受け止めて驚いていた。
「……っ菜摘さん………」
体を少し離した時、隼くんは充血した目を私に向けて、甘い吐息の音を交ぜながら私の名前を呼んだ。
その無意識な色気に、私は思わず唾を飲み込んだ。
隼くんの驚きと喜び、そして戸惑いを受け止めながら、目の前の愛しい存在への暴走を必死に抑えていた。
「菜摘さん……あの……」
そんな私の葛藤も知らずに、隼くんは顔を真っ赤にしながら目を逸らす。
「僕も、菜摘さんのことが…大好きです…」
緊張と羞恥で声を震わせながら私を見上げて伝えたその言葉は、本気であることがすぐに分かった。
私は再び、隼くんを強く抱きしめた。
それは、さっきの慰めとは違う……
愛し合う者同士が、互いの気持ちをぶつけ合うような抱擁。
こうして25歳の私と11歳になりたての隼くんの恋愛が始まった。
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