海猫がニャーと鳴いた日

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後部座席に滑り込むように座った青年は、すぐさま言った。 「運転手さん、行き先は…」 「おっと、それ以上は言わんで結構ですぜ。一部始終は見させて貰いました」 「運転手さん…」 タクシーは制限速度をギリギリに突っ走る。左手に小川を望む片側3車線の国道を、卓越した車線変更を繰り返し前へ前へと突き進んでいった。 その華麗なドライブ技術を見るにつけ青年は感嘆し、また運転手から漂うのっぴきならないオーラにただただ圧倒されている。 (何なんだ、この人は…) アシストグリップを掴み、青年は車線変更の度に激しく襲う遠心力に抗いながら、運転手の一挙手一投足に身を委ねている。 (只者ではないことは、確かだ…) 青年は、グリップを握る指が次第次第にガッチリ食い込んでいくのを感じながら、まだ見ぬバイクの行方を今か今かと見守るしか術はなかった。
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