海猫がニャーと鳴いた日

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タクシーが走り出してから幾つの交差点を過ぎたであろうか。 運転手は確実に交通法規を遵守し、そのギリギリの範疇で迷うことなく国道を直進している。 ただ青年にとってみれば、バイクの行方を感じさせる気配は一向になく、ただただ時間だけが過ぎていくだけ。 (この直線の先にバイクはいるのであろうか?) 前方の交差点をギリギリ青信号で通過した時、青年の心中は行く先の見通しがつかない焦りによるものなのか、不安に掻き立てられていった。 (ひょっとして、とっくのとうに別の道を曲がってしまったのでは?) 尽きせぬ不安と焦りから逃れたいが為、気を紛らわすかの如く青年は車内をぐるっと見回した。 そしてダッシュボードのプレートに表示されている、運転手の名前をチラッと見た。 【氏名:海野猫吉】 すると、まるで青年の揺れる心を見透かしたかのように運転手が言った。 「しっかり掴まってておくんにゃせい」 踏み込まれたアクセルが火を噴いて、前方にぽっかり空いた車線を迷うことなく突っ走る。 急スピードでのけぞる身体、それを懸命に抑える青年。 「聞こえる、聞こえますぜ!わたしにゃね」 「え、何がですか?」 「決まってますがにゃ!」
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