海猫がニャーと鳴いた日

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空白の時は過ぎ、やがて青年が頭を振って意識を回復させると車内の状況が垣間見えた。 猫吉はハンドルにうずくまるように突っ伏している。 衝撃の反動の為か青年の身体は宙を舞うような状態であったが、そんな事は気にもせず、すぐさま急いで後部座席から飛び降りると運転席の扉を開き猫吉に声をかける。 「運転手さん!運転手さん!」 猫吉は青年の必死な叫びに呼応するかのように上半身を上げると、よろよろとしながら座席から降りた。 脚をびっこしながら。 「面目ない、功を急ぐといつもこうなっちまう。弁解の余地なしだ」 「大丈夫ですか?お怪我は!」 「わたしは平気です。しかしコイツはもう無理のようだ」 そう言うと、猫吉はタクシーを哀れむように見つめた。 「救急車、呼ばないと…」 「おっと、それ以上は言わんで結構。心配には及びません」 猫吉は青年の行動を制するように右腕を上げ、一本道の方向に指を差した。 「この先は行き止まりです。あとはあなたがお行きなさい」 「でも…」 「わたしのことは心配ご無用。あなたのバイクはこの先にある、さあ行くんだ」 運転手の静かなる気迫に押し出されるかのように、気が付けば青年は駆け出していた。 バイクがいる、一本道を。 普段走ることなど久しくなかった青年は、息を切らしながらも右手に倉庫群が並ぶ地区へようやく入った。 左手には穏やかな海が広がり、空には無数の鳥が鳴き声を響かせ舞っていた。
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