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佳奈
大阪市内に引っ越した俺たち。2DKのマンション。
今では当たり前だが、当時は珍しかった、友達とのシェアハウスだ。
かずくんは、タイル職人を目指し、俺は塗装屋で働くことになった。
ある日の事だった、会社の前で、座り込んでいる女の子がいた。
時刻は夜の20時。俺は現場から戻って、倉庫内の片づけをしていた。
この街に引っ越してきてまだ10日程。
友達なんていない。ましてや女友達なんてもってのほかだ。
「何してるの?」
俺は気軽にその子に声を掛けると、
「彼氏を待ってる…」
なんだ、男持ちか。少し寂しそうに俺は、親切心も込めて、
「名前、彼氏の名前なんて言うの?呼んできてあげるよ」
「いい」
「なんで?」
「ここに19時って約束してるから」
19時ってもう、1時間も過ぎてるじゃないか。
とりあえず俺は、倉庫片付けに戻ると、
「あの子の彼氏、もう10日も前に会社辞めてるぜ」
先輩が俺にそう声を掛けてきた。
先輩は続ける。
「けなげだね、その男、女いっぱいいたから、騙されてんじゃないかな、あの子」
騙されてる…。
騙されてるなら、優しくしたら俺の事好きになってくれるかな?
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