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嫌な思考を振り払い。修一は今日も仕事に行く。仕事している時だけが無心でいられた。腹の底に渦巻く感情も何もかも忘れることができた。そんな自分が嫌いだ。
修一のまわりには誰もいない。離婚してから祖母が住んでいた家に引っ越してからずっと一人だ。他人と関わることを避けて、近所ともほとんどあいさつすらしない。
憂鬱な一日が終わる。仕事が終わればあとは帰るだけ、ノロノロと中古車が時折、おかしな音がするが修一はそれを無視して自宅に戻った。
そして違和感、玄関前に大量のごみ袋が置かれている。今朝はこんなことなかったのにと思いながら見てみればそれは全て自分の部屋のゴミだった。
丁寧に仕分けされたゴミ袋と、今朝の母の電話を思い出す。修一は勢いよく引戸を開いた。また、勝手に掃除を始めたのか!! 一度、文句をと思って手が止まる。
「あ、おかえりなさい。おじゃましてます」
ピシャリと引き戸を閉めた。見知らぬ女がいた。なぜか体操着姿とマスクに手袋をした黒髪の少女がいた。がらがらと引き戸が開く。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ。あんた誰だ!!」
「あれ? お母さん、あ、貴方のお母さんから連絡いってないの? 縁談の話」
不法侵入で訴えてやろうかとも思ったけれど、仕事の疲れで頭が働かない。なぜ、女がここにいる? なぜ、俺の家を掃除している? 混乱する頭をどうにか動かして修一は言った。
「縁談?」
「そう。縁談、私、貴方のお嫁さんになるの。よろしくね」
「よろしくじゃねーよ。どうみても高校生だろうが!!」
家の親はとうとうボケたのか? それとも離婚してバツイチならどんな相手でもいいのか。いや、そもそもなんで家に来てるんだよ。なぜ、家の掃除をしてるんだ。
修一のお嫁さんを名乗る女、いや少女は明らかに幼い。身長は低いし、マスクでわからないがひどく幼い風貌だ。一度も染めたことなさそうな黒髪を後ろでまとめている。高校生、もしくは大学生か? どうみても未成年に見えてしまう。
「私、修一さんと同い年なんだけどなぁ。ほら、免許証」
ポケットから取り出した免許証、なぜか親指で顔写真だけ隠して生年月日のところだけを見せてくる。名前は東菫平。修一と同じ二十五歳だった。
「あずま、すみれ?」
「お、せいかーい。一発で読めるってすごいねぇー、なかなかいないんだよね。私の名前、読める人。あ、顔写真はちょっとやめてね。恥ずかしいから」
エヘヘと菫平が免許証をかくしながら言う。
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