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第一話、押しかけ妻は、
男やもめとはことのだろうな。山村修一[やまむら・しゅういち]は万年床となった布団と、汚い自室を見てそう思った。
辺りには缶ビールの空き缶が転がり、食べ残したコンビニ弁当から蝿が飛んでいた。それを適当にビニール袋に押し込んでいく。腐臭に鼻をつまみながらもう何日、人と話していないどころか、鏡すら見ていないことに気がついた。
きっと無精髭の醜い顔だ。今時の若者でもなし、身だしなみを整える気力もなかった。仕事は自営業なので時間は自分で決められる。
朝から晩まで働いて、くたくたになって帰ってくる。帰ってきも誰もいない部屋に一人だと思うとよけいに気分が悪かった。
修一は酒は飲むがそれほど強くない。居酒屋に一人で行ける勇気もなくコンビニで買った弁当と一緒に飲む程度、タバコもギャンブルもしないので預金通帳にはある程度の余裕があった。
このまま仕事をやめてしまおうかと思ったこともあるけれど、やめたところで何をするでもなく一日、家にいるくらいなら仕事をしているほうが楽だった。
どうしてこうなったのか。わからない。ただ孤独から逃れたくて一人、うずくまる。布団を頭からかぶり下唇をかんだ。悪い癖だ。
死ぬ勇気もない。もしここで首を吊ってもいつ発見されるかわからない。もし発見された時に自分の死体を想像すると修一には恐ろしくて自殺なんてできなかった。
おとなしくて温厚というのが修一への周囲からの評価だ。おとなしく真面目で、我慢強い。他人が決めた評価だけれど、修一とって唯一の自慢だ。
とにかく修一は要領が悪かった。学校の成績も、運動もクラスの中で底辺をさ迷う。修一は自分のことを深海魚と呼んでいた。
日の光の当たらない暗い海底に潜む生物を自分と重ねていた。漫画や小説のような何かきっかけがあれば何か変われたかもしれないけれど、特に何もなく深海魚のまま卒業した。
都会に出る勇気もなく、周囲の評価だけを頼りに修一は生きてきた。故郷にしがみつき、おとなしく真面目で、我慢強い。だから大丈夫だと自分に言い聞かせる。
我慢強いも、おとなしいも、きっと本当の修一の内面を知らないからだ。修一は自分の中に渦巻くどろどろした感情をただ腹の底に押し込んだ。我慢。我慢と自分に言い聞かせた。夜が長く、修一は眠れなかった。
「俺はなんのために生きているんだろう?」
よくわからない。わかりたくもなかった。
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