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レンタルペット
おじいちゃんが死んじゃったことで、すっかり元気をなくしてたから、ボクはママに提案してみた。ペットを買ってあげたら? って。
でも、きっとペットのほうが長生きするだろうし、そうなるとウチで引き取らなきゃダメになるからと、ママは代わりの案を出してくれた。
〈レンタルペット〉
一時的にペットをレンタルできるサービスがあるらしく、ボクとママは早速お店へと向かい、ペットをレンタルした。
田舎の家にポツンと取り残されてしまうのは可愛そうだからと、都会のボクの家で一緒に暮らすって話もあったみたい。でも、住み慣れた家を離れるのは誰だって心細い。高齢にもなれば尚更だ。できることならそのままの暮らしを続けさせてあげたい。
そこで考えたレンタルペット。寂しさを埋めてくれると考えたからだ。
でも、レンタルのペットじゃ愛着が沸かないんじゃないかって意見もあった。我が家の一員として迎え入れる本当のペットと、レンタルのペットじゃ、注ぐ愛情の量にも差が出るんじゃないのか? って。
でも、心配は無用だった。
いくつも不安はあったけれど、今じゃ田舎の家には陽気な笑い声が戻ってきた。おばあちゃんと柴犬のレオが、楽しそうにじゃれ合っている。
「ほら、レオ、おいで」
尻尾を振りながら、嬉しそうにおばあちゃんのもとに駆け寄るレオ。あんな笑顔を見るのはいつぶりだろうか。ぬくもりが戻ったことでママも安心している。ペットをレンタルしてあげてよかった。
週末になるとボクたちは、ママの運転で田舎の家へと出向いた。レオとおばあちゃんの住む田舎の家に。それはボクにとっての楽しみになった。
狭くて車の多い都会じゃ、満足に外で遊べない。でも、自然豊かな田舎なら自由に走り回れるし、何よりレオもボクが来ることを喜んでくれた。
そして、優しいおばあちゃんに会えるのも楽しみのひとつになった。
レンタルだってなんの問題もない。
田舎の家にはもはや、寂しさなんてどこにもなかった。こうして笑顔で満たされているから。
やがて僕は少年から青年になり、田舎を訪れる機会も減っていった。
そんなある日、悲しい知らせが僕のもとに飛び込んできた。
数ヶ月前から元気をなくし、寝込む日々が続いていると母から聞かされていたが、とうとう息を引き取ったという。幸いだったのは、病気で苦しんだ挙げ句の死ではなく、老衰で最期を迎えられたということだ。
その知らせを聞いた僕は、自分の部屋で、ひとり静かに泣いた。
幼い頃、田舎の家に泊まり、たくさん遊んだ記憶が、脳内でゆっくりと再生される。一つひとつに温度が宿った思い出たち。そのすべてが瞼の裏側に焼きついている。
楽しい時間をともに過ごしてくれたことに「ありがとう」を言うべきなのか、体調が優れないことを知りながらも、足を運んであげられなかった日々に「ごめんなさい」と詫びるべきなのか。複雑な問いに答えを見い出せないまま、いつしか眠りに落ちていった。
「レンタルペット――返しに行かなきゃだね」
僕が運転する車の助手席に座る母。僕は久しぶりに田舎を訪れることになった。
「ただいま」
すっかり声変わりした僕の声。「おかえり」が返ってこない一方通行の言葉。
玄関で靴を脱ぎ、軋む廊下を歩く。居間を覗くとその片隅には、ポツンと取り残され、寂しそうに俯く姿が。僕と目が合うと、安心した表情を浮かべてくれた。
「今じゃ、すっかり家族だね」僕は言う。
「お別れするの、寂しいね」と、母が言う。
レンタルには返却がつきものだ。
おじいちゃんが他界して、ひとりぼっちの時間を埋める間だけレンタルしたペット。そもそも期間限定の家族なのだ。
返却されるのを予感していたのか、穏やかに微笑むその表情はどこか切なそうだ。
部屋の隅へと向かい、そっと手を取る。そして、立ち上がるよう促した。
「今まで、ありがとうね」
「どういたしまして」
「最期までレオを愛してくれて、ほんとうにありがとう」
おばあちゃんの手を取りながら、玄関を出て車に乗り込む。お店に返却すればもう、レンタルペットのおばあちゃんと会うことはない。そう思うと、急に寂しさが込み上げ、僕は何度も鼻をすすった。
本当のおばあちゃんが他界したあと、田舎の家では、おじいちゃんとレオが仲良く暮らしていた。そのおじいちゃんも亡くなってしまい、とうとうレオだけが取り残されることになった。
一度は僕の家にレオを連れて帰った。でも、都会の空気が合わなかったらしく、住み慣れた家に帰りたがった。
そこで、レンタルペットを飼うことにした。ついさっき返却した、優しいおばあちゃんだ。
僕と母は、できるだけ本当のおばあちゃんに似たペットを探した。レオに喜んでもらいたくて。
それが本当のおばあちゃんじゃないことにレオは気づいていたはずだ。でも、レオに対する僕らの精一杯の配慮だと理解してくれてのことか、すぐにペットのおばあちゃんに懐いてくれた。
ペットとの別れを終え、再び二人になった車内。僕はさりげなく助手席の様子を伺う。
生きている限り、人はいつか死を迎える。寿命の場合もあれば、悲しい運命がそうさせることも。
彼女もきっと、そんな悲しい境遇に耐えられなかったんだろう。悲惨な事故で、大切な家族――夫と息子を失うなんて。
「ママが死ぬまでずっとそばにいるね。レンタルペットの僕のことを、こんなにも愛してくれてありがとう」
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