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登美子の白い外車は、悠一とお姉さんの車道を、音もなく不気味な速度で進んでいた。
車窓から観える遠くの空が青白く光り、ゴロゴロという音が微かに聞こえた。
登美子は左手で左ハンドルを操作しながら、右手に煙草を挟んでいた。
助手席に座っている悠一の目の前の空間に、煙が漂った。
悠一は露骨に、不愉快な顔をした。
「僕の傍で、汚れた煙を吐き出すのは、止めてくれよ !」
直ぐに登美子のヒステリックな声が響いた。
「ふざけた事を、言ってるんじゃないわよ !」
怒りに震える登美子は、吸っている煙草を灰皿に置き、右手で悠一の頭を強く引っ張たいた。
再びの無音と静寂の中、助手席に座る悠一の頭に、小学生の頃の光景が浮かんでいた。
何時も真夜中だった。
小学生の悠一がベッドで寝ている時、バー勤めを終えグテングテンに酔っ払った登美子に、髪の毛を掴まれながら叩き起こされた。
「いつまで、寝ているんだよ !」
の声と同時に、頭を引っ張たかれた。
店で何か面白く無いことが在った時には。
「ふざけんじゃないわよ !ふざけんじゃないわよ ! 」
と、ヒステリックな声を連発しながら、頭も顔も背中も、メチャクチャに殴られた。
幼い悠一は、登美子の剣幕が怖くて、泣きながら。
「ごめんなさい ! ごめんなさい !」
と、何度も何度も誤った。
何にも悪い事をしていないのに、誤った。
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