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15歳に成った悠一は田舎町から都会の高校へ、バスと電車を乗り継ぎながら通っていた。
本当は都会の高校など行かず、田舎の暗闇で時の経過を遣り過ごし、いつの日か心に浮かぶ清らかな異空間に、旅立ちたかった。
都会の高校へは、母、登美子の世間体の見栄の為に、仕方なく入学した。
夕暮れの下校時、カバンを手に学生服姿の悠一は、町駅の人混み雑じりの改札口を出て、バス停に向かっていた。
バス内に乗り込んだ悠一は何時もの様に一番後ろの席に座り、次の電車からバスに乗り込んで来る、乗客の姿をジッと待つ。
バスの車窓から、悠一が通う反対車線のプラットホームに電車が滑るように走って来て、停車する姿が見えた。
悠一の心がトキメク。
あの女人が乗って帰って来る電車だ 。
何時も、足の不自由な、あの女人は、顔を振り片足を引きずりながら、必死な形相でバスに乗り込んで来る。
しなやかな髪、透き通るような清楚な顔、悠一は半年間憧れを抱き続けた美しき女人に、初めて話しかけたのは、5日前だった。
ただ一人の友人も彼女もできる訳が無い孤独な悠一が、名前も知らない年上の女性に自ら声を発したのは、この清楚な女人が、悠一を、汚れた現実世界から清らかな異世界に導いてくれると、心、ときめいていたからだ。
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