20人が本棚に入れています
本棚に追加
夜空は黒と灰色の入り混じった異様な雲が広がり、今にも恐ろしい雨が降りそうな気配だった。
鳥居の下の石段にポツリと座る悠一が、闇の空を見上げた時、彼方に音の無い青白い稲妻が光った。
稲妻は閃光と生り、悠一の頭を突き刺した。
亀裂が入り崩れ落ちて行く、自分の家の姿が浮かんだ。
血のつながりの無い悠一の父、信男は、詐欺師だった。
詳しいことは判らないが、信男は、東京の都心の1等地に事務所を構え、得体の知れない連中を雇っていた。
今は、落ちぶれて金に困っている、嘗ての財産家や社長の高価な芸術品や骨とう品を買いたたく投資金を、会員から募り、何倍もの価格で売り裁き、会員は高額な配当金を受け取る仕組みの様だった。
血のつながりの無い父、信男は、闇のファンド会社を設立し、架空情報の詐欺商法で、数十億という巨額の富を騙し取っていた。
悠一は、今夜、信男が刑事に逮捕され、家宅捜査が開始されていると思っていた。だが家宅捜査は、夕方や夜に行われる事は殆ど無い。通常は、3~5人ぐらいの捜査員が差押え令状を手に朝方から抜き打ち的に来て、ガサ入れは実行される。
実際に信男は、午前中に逮捕され、母、登美子の目の前で家宅捜査は行われている。しかし家宅捜査は、ピンポイントの数か所を行っただけで、直ぐに打ち切られていた。捜査員たちは、この家内にも周辺にも、隠し金は全く無いと見切りを吐けたからだ。
その時、登美子は捜査員の前で。
「私は、夫は東京で古物商の会社経営をしていているものだとばかり、思っていました。夫がソンナ詐欺まがいの会社を経営していたなんて、全く知りませんでした。夫が、そんな悪い事をしていたなんて? ソンナソンナことは本当なんですか!?」
と、平然と嘯いていた。
数か月前、隠し金を管理している母、登美子が全ての汚れた金を、登美子が関係する影の男たちの闇の中に、移している。
悠一が雑木林に隠している汚れた数百万円は、以前に家中に隠し金が存在していた時にクスネタ、金だった。
最初のコメントを投稿しよう!