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家の前の歪んだ街灯の下に、白い外車の姿が浮かんでいる。
悠一が後部座席を覗くと、登美子が逃げる準備と思われるような大きな手提げバッグが膨らんで置かれ、横にブランド物の小型バッグが並んでいた。
悠一が玄関からリビングに入って行くと、冷たい光の中のソファーで、足を組んで座って、気だるそうな顔で煙草を吹かしている、登美子の姿が在った。
その登美子の顔を観て、信男は逮捕されて行ったと、感じた。
部屋内は家宅捜査をされた雰囲気が在ったが、そんなには散らかっていなかった。
「こんな夜遅くまで、何処をホッツキ歩いていたの ? 」
「其処らだよ、…… 」
「私は、今から暫くの間、旅行に出るからね」
「ふーん、そう …… 行く先で、もう、悪い事は止めた方がいいよ」
一瞬で、登美子の顔が引きつった。
「偉そうな事を、言うんじゃないよ ! 」
登美子は立ち上がり、悠一の顔を思いきり引っ張たいた。
悠一は怯まなかった、もう慣れていた。心の痛みは感じるが、体の痛みは感じなくなっていた。
悠一は、睨むような顔で言った。
「車で消えるんなら、コンビニまで乗せっててよ」
登美子も睨むような顔を向けた。
「コンビニまでだよ。これが最後だよ…… 」
「ああ…… 」
悠一の脳裏に、詐欺師家族、汚れた家族とか、家族という言葉は浮かばない。
あんたも、あいつも、ぼくも、犯罪生物だ ! 偽りの生物だ ! という言葉が浮かんだ。
悠一に、家族という言葉は、存在しない ………
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