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三日目の朝、もう一度スイッチをつけた。期待通り、公園でもスーパーでも赤ちゃんを連れたお母さんたちは、まるで私を待っていたかのように近寄ってきた。赤ちゃんたちは、小さな手やぷにぷにした頬を思う存分触らせてくれた。一度はまだ首の座りきらない子を抱っこさせてもらった。
しみじみとときめき貸しのすごさに感心しながら、店にスイッチを返しに行った。
「いかがでしたか?」
「ええ、それはもう……」
「楽しんでいただけたようでよかったです」
店主は、私が多くを語らなくてもわかっている様子だった。
「スイッチを返却いただいたのちに、とっておきのサプライズが来たっておっしゃる方、多いんです。うちサービスはもう終わっているのに、不思議ですよね」
店主はそう言って、笑った。
「とっておきのものはもういただきましたよ。でも、楽しみにしていますね」
余裕しゃくしゃくで店を出たところで、携帯電話が鳴りだした。着信画面に表示されているのは娘だった。
最近忙しいと言って連絡もなかなかよこさない子から電話がくる、それだけでも十分なサプライズだと思って電話に出た私の耳に、娘の早口の声が飛び込んでくる。ひとしきり近況を伝えたのち、不意に娘はだまった。
「そう、元気そうでよかったわ」
これは何かあるなと、身構えた瞬間、娘の口から思いもよらない言葉が飛び出した。
「お母さん、私、結婚する。今、妊娠四か月なの」
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