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あたたかい灯りにつつまれた店の奥で、お嬢さんと呼ぶには少しとうの立った女性がこちらを向いてにっこりとお辞儀した。
「いらっしゃいませ」
店の中央には大きな木の机が一つ、左手には作り付けの天井までの棚があり、たくさんの木の箱と本が整然とおさまっている。表には雑貨店と書かれていたが、いわゆる雑貨は店の中を見回しても見当たらないようだった。
「あの……」
「表の張り紙をご覧いただきましたか?」
店主と思われるその女性は、ゆったりとした動作で私に椅子をすすめた。
「春から始めたばかりのサービスなのですが、大変ご好評いただいております」
「そうですか……」
「よろしければ、いくつか人気のものをお見せしましょうか?」
店主は壁の本棚から薄い冊子を取り出して私の前に広げて見せた。
「こちらが『ときめき貸し』の概要です」
『ときめき貸し』というその制度そのものは簡単だった。ときめきの対象を選んで、それにあわせたスイッチ、と呼ばれるものを貸してもらう。期間は三日から二週間。スイッチをOnにしている間は、ときめきの対象が引き寄せられてくるらしい。
「人気なのは『人』です。特定の方を指名していただくことはできませんが、俳優さん、電車の中ですれ違う相手、昔好きだった人に似ている人…などの設定は可能です。もしくは、子供、赤ちゃん、気の合う友達、趣味仲間、などもございます。人ではありませんが、犬、猫、爬虫類、なんていうのも」
子供たちが小さかった時の、柔らかい手の感触が不意によみがえった。
「赤ちゃん……かしら」
思わずつぶやくと、店主はおおきくうなずいた。
「十分に楽しんでいただけると、自信をもっておすすめします」
その後、簡単に料金プランを説明されて、思ったより安かったので、三日間のときめきを借りることにした。実際に借りるのは、平べったい石の裏に小さなスイッチがついたおもちゃみたいなもので、革ひもで首からかけられるようになっていた。
「三日でしたら、充電は不要です。もしも、もういらないとなったら、その時はスイッチをお切りください」
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