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それは、とても安易な発想だと思われた。しかし、あたしが思っている以上に大福も長男次男の仲には気をもんでいたらしく、二言返事でOKしてくれたのである。
あたし達が仲良くすれば、長男次男の仲も少し改善するかもしれない。
そして彼等がまた喧嘩しそうになった時にあたし達が止めれば、ちょっとは仲直りしようという気になってくれるかもしれない。
少なくとも、猫という存在に癒しパワーがあることは、既に大々的に証明されていることなのだから。
「おい、兄貴。あのいちごと大福が……!」
翌日。あたしが大福の毛づくろいをするのを見て次男が驚きの声を上げた。仲良くするあたし達を見て、彼等もどうか自分達を見つめ直して欲しい――それは、想像以上の効果を生んだようである。
何故ならこの直後、長男が勢いよく頭を下げたのだから。
「ごめん!その……昨日、勝手に上着洗濯して。俺の奴洗うついでにお前のも洗った方がいいかなって思ったんだけど、許可取るべきだった」
「え!?あ、いやその……それは」
「それから、二年前のこともちゃんと謝らせてくれ。……お前なんかいなくなっちまえ、なんて酷いこと言って悪かった。受験勉強で苛立ってたからって、小学生相手に大人げなかったよ」
「!」
どうやら、次男がずっと気にしていたのはその一言であったらしい。二人の間にそんなやりとりがあったなんてあたしは知らなかった。次男を見れば、彼はまたしても昨日と同じ、泣きそうな顔をしている。
「……オレこそ、ごめん。兄貴」
これで、一件落着になるだろうか。あたしはほっと胸を撫で下ろした。問題があるとすれば、一つ。
「おい大福、さりげなくあたしのシッポ踏むな」
「え?何のことかしら」
「てめえ……!」
この兄弟を円満に保つためには、もう当分あたし達も仲良しを演じなければいけないだろうということである。正直、既に結構しんどい。とりあえず、喧嘩は家族がいない時に、ペットカメラに映らない場所でこっそりやるしかなさそうだ。
あたしは長男次男に見えない角度で、大福にこっそり猫パンチを決めてやったのだった。
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