愛と一緒に猫パンチ!

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 ***  派手に猫パンチでやりあうあたし達と違って、坂本家の長男次男の状態はもっと分かりづらいものである。派手な喧嘩はしない。その代わり、ほとんど目も合わさないし会話もしない。ほぼ一方的に次男が長男を避けている、というのが正しかった。長男も長男で、昔冷たくした負い目があるせいで積極的に話しかけようともしない。それでますます引っ込みがつかないような状態になり、ずっと仲が悪いまま今日まで来てしまっているというのが現状だった。  もうすぐ、次男が今度は高校受験の時期になる。そうなったら、彼はますます長男と距離を取ってしまうだろう。それまでになんとかして二人の仲を取り持てないものか――そんなことを思っていた時、事件が起きたのだった。 「だから!オレの上着は洗わなくていいつったじゃん!何で母さんから話聞いてねーの!?」  突然、何かが爆発したのである。洗濯を巡る、極めて些細なことがきっかけで、次男が長男に詰め寄ったのだった。 「余計なことすんじゃねーよ兄貴!いつもいつもいつもお節介焼きやがって!」 「お、俺は別に……」 「ああもう、ほんとマジ苛々する!しばらくオレに近づくんじゃねー馬鹿野郎!」  近づくな、とまで言われたのは初めてだったのだろう。呆然とする長男を置いて、次男はさっさと部屋に入ってしまった。あたしは慌てて、ドアがしまる寸前に彼の部屋に滑り込む。次男はベッドに転がって枕に顔を押しつけ、イライラしながらずっとぶつぶつと文句を言っていた。 「にゃあ」  あたしがちょっと可愛く鳴いてみせると、部屋に入ってきた猫に気づいてか顔を上げる次男。その眼は、ちょっと泣きだしそうに見えた。 「オレ悪くねーし。いちごも、そう思うよな?オレ、悪くないよな?悪いのは兄貴だよな?」 「……そうやって言い聞かせてる時点で、答えは出てるんじゃないの?」  どうせ、あたしの言葉なんか人間にはわからない。それでもあたしがじっと彼のを見つめて語りかければ、次男は気まずそうに視線を逸らしたのだった。 「ごめん、お前に愚痴ってもしょうがないよな。……何でこうなるかな。兄貴と喧嘩したいわけじゃねーのに。……なんでいつまでも、昔のこと引きずってんのかな。兄貴の受験勉強邪魔しちまったのは……オレの方が悪かったって、今ならわかってるのに。なんで、それ一つ謝れねーのかな……オレ、駄目だな」  昔は、大好きだったのに。  ぽつりと響いた一言が、あたしの胸に強く刺さったのだった。
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