久しぶりの電話

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久しぶりの電話

 大学も終え、地元へ帰る選択肢などなく……都会でそのまま就職していた。  仕事に追われる日々だったが、やればやるほど自分に還元される。毎日は充実していた。  気が付けば……実家への連絡も途切れ途切れになることが多い。  電話越しに言われる『帰ってこい』『定期的に連絡して安心させろ』そんな言葉にうんざりしていたのかもしれない。  私の人生は家の為にあるのではない、一族繫栄の駒ではない!  そう叫びたかったのだ。  誰も〝私という個人〟を見てくれている気はしなかった。  私は珍しく人の死に目にあったことが無かった。  一族は皆元気で五体満足何不自由のない暮らしをしていた。  ……だから誰かが死ぬという現実に対して、どこか楽観視していたのだと思う。  久しぶりに電話が鳴った。  実家からの着信にうんざりしていたが、何気に通話ボタンを押す。 『お母さんがね……実はガンでもう長くはないらしいんだよ。帰ってはこれんかね?』  それは弱々しい祖母からの電話だった。  衝撃が走ったが、何故か他人事のような……渦中の人的な他人視点にしかなれず、とりあえず職場へ連絡を入れると次の日に乗る夜行バスの切符を手配した。  とりあえず帰ってみようと思ったのだ。  夜行バスの中、心の中は今まで体験したことのない事象に胸が高まっていくのを感じていた。  悲劇のヒロイン的な思考だったのかもしれない。それが更に自分の心をドキドキさせていた。 『私は母親の危篤の為駆けつける親孝行な娘』  そんな勲章を抱いていたことも否定しない。
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