病気、貸します

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「……けど、このご時世だもんね」  せっかく正社員として働けているのだ。一時の感情にまかせて会社を辞めたら、次が見つかるかわからない。むしろ、見つからない可能性の方が高い。  上司が言うとおり、本当にどこに行っても使えないと言われることだってあるかもしれない。  そう思ったら、会社を辞める決心もつかない。こんな風に悩んでいるのは今日だけに限ったことじゃない。  私は大きくため息を吐く。 「はぁ、せめて明日だけでも休めたらな。いっそのこと、熱とか出ないかな……。ちょっとならともかく、ふらふらで立ち上がれなかったらさすがに行けないって言えるし。もう、いっそのこと……」  病気にでもなってしまえば強制的に休めるのに、と思う。会社に行けないくらいのやつ。残念なことに、身体には異常はなく健康なのだが。  仮病でも使えばいいのではないかとも思うのだが、私は自分で言うのもなんだが割と真面目な性格だ。子どもの頃から仮病で休んだことは一度も無い。 「大体、そんな勇気も無いってことなんだけどね……」  自分の性格を恨む。
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