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2.重い女
「レンタルショップでーす!なんでもありますよ、どうぞ~」
雑居ビルが立ち並ぶ路地裏で、明るい声を張り上げて、男が気さくに通行人にチラシを差し出している。開いたばかりの店の宣伝だ。
「レンタル?」
「ウケる、なんでも貸します、だって」
鮮やかな色、派手な柄の開襟シャツを着た若い男の二人組。片方はサングラスをあげて眉をひそめ、もう一方は金髪頭をのけぞらせて笑い転げた。
「どうですお兄さんたち、寄ってきません?重い女とか、オススメですよ~」
「いやいらないだろ、すすめんなよ」
「マジウケる」
「どうぞどうぞ、こちらへ」
手招く店員に、好奇心でついていくと、ビルの階段の脇に、女性の顔のアップ写真がパネルのように掲げられている。店員は右隅の若い女を指さした。
「この娘は、毎日一時間にいっぺん電話かけてきます。出るまで鳴らされ続けるんで、なかなか、スルーも難しいっすね」
「重いな」
「ウケる」
「隣の娘は、毎日、家の前で帰り待ち受けてます」
「毎日かよ。てか一緒に住めよ」
「ウケる~」
「住みます?住んじゃいます?毎日、おかえり♪のあとに、ワタシと仕事、どっちが大事?って迫られますよ~」
「いやいやいやメンドくさいから」
「ウケるから!」
「こっちの娘になると、まずスマホチェックですよね。支払いだとか、通話、メッセージ履歴、他の女に金使ってないか、やりとりしてないか、シャツもすみずみまで、まちがっても口紅なんかついてようもんなら!すべての身体検査をパスしないと家にも入れてもらえません」
「冗談じゃねえわ。オレの家だろ」
「チョーウケる!」
サングラスをかけなおすと、男は当然の疑問を口にした。
「そんな女、誰か借りてくヤツいるのかよ」
「そこなんですよ。お持ち帰りが、なかなか難しくってですねえ。どうしたものか、考えてるんですけどねえ」
腕を組んで、店員が顔をしかめた。
「写真だと。わかりにくい、ていうかわからないように撮ってますけど。この娘たち、みんな。100キロ以上、あるんですよねえ~」
飛び出さんばかりに、男二人は目を見開いた。
「「重たいわ!!」」
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