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4.あなた
二人並んで鏡に映る姿に言葉を失う。
「マジでそっくり・・・」
ちょっと、ひくくらい。双子でもここまで似てなくない?昔マンガで出てきたコピーロボットみたい!
「自分でも見分けつかないわ~。なんでも、ってものすごいモノ貸してくれるわね」
再び、頭のてっぺんから足の先まで見分して、つくづく成功を確信した。これならきっと大丈夫。顔をほころばせて、両手で向かいの分身の肩を叩いた。
「明日、あたしの代わりに会社行ってもらうからね。よろしく!」
「えぇ?」
怪訝そうに眉をひそめられる。一緒に笑ってはもらえなかったが、確かに気が乗らないときの自分の反応はこんなカンジだ。
「それがさぁ、ちょっとやっちゃったのよ、取引先に送った請求書、ミスっちゃって。あ、大丈夫、謝罪訂正済、そこは安心して。ただね、先パイがね・・・今日は幸い休んでたんだけど、明日出社してくんのよね・・・」
「はぁ?川端さん?ゼッタイ怒られるじゃん!」
「あ、知ってる?話早くていいわぁ、だからね、そこで、アナタの出番なわけよ。軽くて小一時間、ヤバけりゃ一日中説教されるから。マジめんどいから」
救世主を得た気持ちで手を合わせるが、分身の方はといえば、顔面の皮膚全部をミイラのようにシワだらけにしている。
わ~・・・イヤそう・・・全部カオに出てる・・・。少し、不安が胸に兆した。
「まぁ、そりゃ、こっちはレンタル品なんで。仕方ないけど、行くけど」
渋々、分身が重い口を開いた。この機会を逃すまいと再度拝む。
「ありがと!助かるわ~」
「感謝してくれるんなら、言葉よりはっきり形にしてもらいたいけど」
「はぁ?」
続くセリフに耳を疑った。
「ラ・ボンヌ・アドレスのケーキとか」
「ちょっと待ってよ、それあたしのとっておきご褒美スイーツでしょ!それを我慢する代わりに、アンタ借りたんだから!」
やっぱり不安、大丈夫?こいつ行かせて。明日代わってもらっても、その後はまた自分が出社するのだ。さらなる説教を招くか回避できるか、分身次第ではないか。
「ねえわかってる?ヘタに口答えなんてしちゃダメよ、説教おさめるには先パイのいうことハイハイって聞いとくしかないんだから」
「あぁ、まあ、わかってるんで、たぶん」
明らかに不機嫌そうに、こちらと目も合わせない。
「そうだ、予行演習しとこうか。たぶんこうよ、開口一番、アナタまたやらかしたのね?ってくるから、はい」
「はい。・・・たぶん」
「たぶんいらないでしょ、先パイにもつっこまれるわよ、自分でやったことでしょ、って」
「はい。・・・たぶん」
「だから、たぶんいらないってば。で、アナタこれで何度目よ、送信前にダブルチェックしたの?」
「しましたけど。たぶん」
「たぶんじゃダメでしょ、絶対しなさいって言ったでしょ!」
「あぁ、まあそうですね、言われましたけど。・・・たぶん」
「だぁから!!」
あやうく分身の頬をひっぱたくところだった。
「なんなのアンタ、たぶんたぶん、てアンタがやらかしたくせに他人事みたいに!」
「他人事だし」
「あぁそうか、そうだけどそれおいといて、でもそのカオも態度もあからさますぎるでしょ、ふてくされてまったく反省の様子も見られやしない!」
って嗚呼!!叫んだ後に、がっくり、膝を落としてその場にくずおれた。
「・・・あたし、こんな風なんだ・・・」
そりゃ説教止まらなくなるわけだ。今自分の口をついたセリフも先パイの決まり文句そのものだった。しかも、分身にとっては他人事だが、自身には、
「・・・他人事じゃないし・・・」
やだもう、外見だけじゃなくって中身のヤなとこまで、まんますぎる!衝撃に身悶えた。
「もういい?」
突っ立って見下ろしてくる分身は、予行演習などムダだとうんざりを隠しもしない。
「だからさ。堂々としすぎだって・・・」
全身から溜息がこぼれる。
さすが、あたし。
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