5.Close

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 「マジか」 サングラスを額にあげて、しげしげと眺める。誘われるままに雑居ビルの狭い階段を上ると、店の入り口のガラス扉は開け放たれ、金モールで縁取られていた。中央に華々しく掲げられたウェルカムボードには、 「祝!閉店!ってちがくね?」 「ウケる~」 隣で金髪の相棒も笑い転げる。 「祝うなら開店じゃね?こないだオープンしたばっかじゃね?」 「せっかくの閉店ですからねえ~」 店員は朗らかに二人の背中を押し込んだ。 「パーッといきましょう、パーッと。ささ、始まってますんで、どうぞどうぞ、ずずいっと中へ」 「せっかくの意味、わかんね」 「パーティー、ウケる~」 レンタル品の陳列棚を四方に押しのけてこしらえた畳一畳分程度のスペースに、丸いテーブルが二卓。椅子はない。ジュースや酒のペットボトルや瓶、紙コップ、つまみ菓子をのせた紙皿が数枚ずつ並べられていた。奥の卓のスーツ組、中年男性と年の離れた女性二人は知り合いらしく、飲み物をつぎあい、手前の卓には、ふんぞり返ってコップを煽る女としおれた植物のようにうなだれた青年、という対照的な取り合わせだった。 「ねぇチーズケーキないの?」 視界に店員をとらえた女がすかさず注文をつける。 「ん~あったかな、在庫見ときますね。明日」 「なんで明日よ!今食べたいんだけど!」 「はいはい、ちょっといいですか、テーブルくっつけちゃいますね。はいはい、どうも、ご協力いただいて。どうぞどうぞ皆さん、常連さんですから、盛り上がっちゃってくださいね~どうぞ遠慮なく~」 一同に笑顔を振りまいてレジの向こうに消えた。 「常連っていうか。オレら一回も借りたことないけど」 「ないない。ウケる~」 が、タダとあって、男たちもコップと酒に手を伸ばした。 「私たちも、常連ってわけじゃないけどねえ」 「一回借りたら、忘れられないお店なんで」 スーツの女性たちが肯き合って、豆菓子の皿を回してくれる。一番に手に取ったのは、一気に前傾姿勢にシフトした女だった。 「チーズケーキ」 豆菓子を頬張りつつも呟いている。未練らしい。 「ぼくは・・・ぼくは・・・」 はたとそれぞれが飲み食いを止めた。ふと聞こえたはかなげな声は、いったいどこから?
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