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「ぼくは、どうしたら・・・」 輪の片隅でひっそりとしおれたままの青年に注目が集まった。 「このお店がなくなってしまったら・・・借りても借りても、足りないのに・・・」 男たちとスーツ組が驚きの顔を見合わせる。本物の常連客がいたのだ。察した女が正面から指を突き付けた。 「もしかして、アナタね、ヤル気借り続けてるの!たまにはあたしに借りさせなさいよ!」 女の剣幕にいよいようなだれて、青年の額がテーブルにくっつきそうだ。 「ぼくは、それがないと・・・ただ、生きていくことさえ・・・」 「そうかそうか。大変なのか」 右隣からサングラスの男が肩を叩いてコップを握らせ、 「ま~ま~飲んどけ」 左隣に移動した金髪が瓶を傾けなみなみと満たしてやる。見守りながら、スーツ組は首を傾げた。 「ヤル気?」 「どういう仕組みなんですかね」 「有り余ってるところには有り余ってるんですよ~」 再び軽やかに姿を現した店員が、全員に十センチ四方の紙を配って回る。五列、五行に25までの数字がひとつずつ書かれていた。 「はい皆さんお待ちかね!ビンゴゲームです!」 「ビンゴって」 「ウケる~」 女は一番知りたいことを率直に聞いた。 「待ってないけど。何当たるの?」 「それはもう、みなさんの目の前にほら、ずらっと並んでますよ」 満面の笑顔で店員が両手を広げた。 「右を見ても左を見ても当店自慢の商品がずらり!豪華賞品の山!はずれなし!好きなものを選んでください!」 「マジか。じゃあヤル気持ってけよ」 男に肩を叩かれ、青年の顔にもうっすらと生気がさしはじめる。 「ヤル気を・・・いいんですか・・・」 「はいもうお好きなものを!選び放題!」 「じゃああたし、コピーロボット的なあれ。あれあたしとるからよろしくね!お願いします。あいつ代わりに会社行かせたら翌日散々だったんだから、どうせ怒られるんだったら最初っから自分で行きゃよかったし文句言わないと気が済まない」 「なかでもとっておきの賞品は!なんと、この店のオーナー権です!」 店員からはパンパカパーン!とファンファーレでも鳴らしたいくらいの発表であり、実際クラッカーの紐をひいてパン!と明るい音と色とりどりの紙吹雪をまき散らしたのだが、一同はぽかんと眉をひそめあうだけだった。 「マジか。それがとっておきか」 「ウケるしかないんだけど~」 「まぁでも、いいんじゃね?」 男が青年の肩を抱き起す。 「な、いっそ店ごとヤル気を自分のものにしちまえよ」 「なるほど。でも、いいんですか」 「ほかにこの店欲しがるヤツいねえって」 「いたらウケるから」 そうっと顔を上げた青年にスーツ組も肯いている。 「はい、じゃあ、思い切って」 「店はいらないけどヤル気はあたしにも回しなさいよ」 「はい。大量に仕入れます」 女にしっかり返事をした。景気づけに男が紙コップを打ち付ける。 「よし、来いビンゴ!」 こほん、と咳払いがひとつ挟まった。スーツの中年男性だ。 「すまない、水を差すつもりはないんだが、この店は閉店するんだろ。オーナー権を譲り受けたところで、そもそも経営状況が、よろしくないのではないだろうか」 「あ、そうか、赤字か」 「ヤベ~」 確かにもっともな懸念だ。青年が瞳を曇らせる。 「そうですね・・・かえって母さんを心配させちゃうな」 「あ、大丈夫ですよ!」 笑って店員が両手を振った。 「売上なんか、深刻に気にしない気にしない!いいんですってそんなこと!」 「いや君、そういうわけには」 「てか、だから赤字なんじゃね」 「ウケる」 「大丈夫大丈夫、レンタルですから!」 「は?」 面食らって、客同士が互いに互いの目を見合わせた。一人、店員の笑顔はますます輝きを増す。 「賞品全部、貸します!レンタル期間はどーんと大盤振る舞いで、なんと、一年間!店のオーナー権まで大放出!好きなもの持ってって、一年たっぷり楽しんでくださいね~!」 同じことだとわかっていても、全員が一言発せずにはいられなかった。 「返すんかい!」 「返すのかよ」 「返せって、ウケる~」 「返すんですか?」 「返すとは」 「返すの?」 「返すんだ・・・」 終
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