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一
少女が目を覚ましたのは、教会のような場所だった。
いろどり鮮やかなステンドグラスには、健やかな顔で笑う子供のイラストが描かれており
装飾が施された祭壇には、ハート型のオブジェを暖かな眼差しで抱きしめる聖母像が祀られている。
「ここ・・・どこ?」
少女はあまりの事態に、状況を飲み込めていない。
「私・・・自殺したはずなのに・・・」
そう。少女はつい今しがた、自宅の自室にて大量の睡眠薬を服用し、自殺したはずだった。
「私・・・生きてるの?」
自分は自殺したのにも関わらず、こうして生きている。
そんな状況に少女が呆気に取られていると、スーツ姿の優しい表情をした男性が声をかけてきた。
「ようやくお目覚めのようですね、間宮燈様!」
「え?誰?それに何で私の名前を?」
見知らぬ場所で目を覚まし、見知らぬ男性に名前を呼ばれる。
何もかも訳が分からずに、動揺している燈を尻目に、男性は淡々と語り出す。
「いきなりの事態で困惑されているとは存じますが、順を追って説明させていただきます」
男性は燈に深々とお辞儀をする。
「は、はい・・・」
「まず、自己紹介をさせていただきます。」
男性はそういうと、懐から一枚の名刺を取り出し「私はこういう者でございます。」と丁寧に挨拶をしてきた。
その名刺には
「こころクリーニング 暮内亜紋」
そう書き記されていた。
「こころクリーニング?」
「左様でございます」
燈は暮内にこころクリーニングとは何かを尋ねる。
「こころクリーニングとは、自殺を行った方々のこころの清掃をお手伝いさせていただく、自殺者救済機関でございます」
「こころの清掃?自殺者救済?」
暮内にこころクリーニングとは何かを説明されても、燈には微塵も理解できなかった。
こころを清掃するとは何だ。意味がわからない。
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