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朝起きたら、左手の薬指に赤い糸が巻きついていた。佐奈は首を傾げると、いつこんなの付けたのだろうと昨日の出来事を思い出す。でも特に赤い糸を巻きつけるようなことはしていない。妹の麻奈が悪戯で付けたのだろうか。運命なんて信じないという佐奈をからかうために。
女子高生にしては珍しいくらい、現実的な性格の佐奈は昔から白馬の王子様なんて信じていなかった。麻奈は昔からおとぎ話などにときめいていたりしたが、佐奈にはそんな経験は一度も無い。人生を何周もしたことがあるのだろう、きっと。だから現実を見据えている。理想はあくまで理想、現実とは違うということを生まれた時から分かっていたのだ。
だから少女漫画とかの都合の良いストーリーも、恋愛ドラマとかで見る運命の相手とかも信じていない。だってそれは人々が創り出した理想で、現実では絶対に起こらないのだから。皆、現実から目を背けたくて理想を創る。運命もその一つに過ぎない、と。
佐奈は蝶々結びを解こうと、糸を引っ張った。すると普段なら解けるはずの糸を引っ張ったはずなのに、むしろ絡まってきつく結ばれてしまった。一体どういう結び方をしたのだろう、麻奈は。
佐奈は溜息を吐くと、ベッドから立ち上がった。机の引き出しからハサミを取り出し、糸を切ろうとする。瞬間、その糸が部屋の外まで繋がっていることに気が付いた。
せっかくの悪戯なのだから、姉として少し付き合ってやるか。一体どこまで繋がっているのだろう。佐奈はハサミを下ろすと、ボサボサの髪のまま部屋を出る。
縁側を通って居間までやって来ると、既に身支度を終えた麻奈が朝ご飯を食べていた。「姉ちゃん、おはよう」と毛糸なんて気にも留めずに挨拶をする。毛糸はさらに遠い所に繋がっている様子だった。
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