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「麻奈、あんた一体どこに繋げたのよ」
「何が?」
「何がって、これ」
そう言って赤い糸を見せると、麻奈が「は?」と可笑しなものを見るような目で佐奈を見る。
「何もないけど。姉ちゃん、寝ぼけてるんじゃない」
「寝ぼけてない。この赤い糸巻きつけたの、麻奈でしょ」
「赤い糸? そんなの無いけど」
「嘘吐かなくていい。あんたがやったの分かってるんだから」
「さっきから何の話してるの?」
麻奈が困惑したように箸を置く。まじまじと佐奈の左手の薬指を見たが、ただ眉を顰めて首を傾げるだけだった。まさか、本当に見えていないのか? ならこんな悪戯、誰がやったのだろう。
「あ、お母さん。これ、お母さんには見えるでしょ? 赤い糸」
佐奈の朝ご飯を食卓に持ってきた母に左手を見せると、同じく母もきょとんとした顔を浮かべた。「赤い糸?」と見えていないように呟く。
「姉ちゃん、やっぱ寝ぼけてるんだよ。てか、姉ちゃんの口から赤い糸なんて言葉出るとは思わんかったわー。姉ちゃんもついに夢を見るようになったか、高校二年生にして」
「いや、だから──」
麻奈がご馳走様、と逃げるように食器を流し台に持っていくとそのまま鞄を持ってそそくさと出て行ってしまった。
「佐奈も早く支度しなさい。遅刻するわよ」
「うん……」
佐奈は首を傾げながら自分には見えている赤い糸を触る。これが麻奈にも母にも見えていなかった。見えているのは自分だけ? 何でそんな。何のために。
佐奈は支度を整えて食事を済ませると、行ってきまーすと外に出た。今日も鬱陶しいくらいの快晴。緑の山々に囲まれた田舎町に住む佐奈は自転車に乗ると、一気に坂を駆けあがった。
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