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赤い糸は途切れることなく繋がっている。どんだけ自転車で疾走しても赤い糸は解けることも、途中で切れることもなくしっかり佐奈の薬指に巻きついていた。
「佐奈ちゃん、おはようー」
「おはよう、飯田のおばちゃん!」
坂を駆け上がりながら、近所に住む人から挨拶される。赤い糸については何も言われなかった。やっぱり見えていないのだろうか。
昔、強制的に麻奈に読むよう言われた少女漫画を思い出した。運命の赤い糸、というくだらない話を。そんなの現実である訳ない。運命の相手と繋がった赤い糸なんて、人々が創り出した理想に決まっているのだから。
でもこれが麻奈の悪戯でもないなら、一体何なのだろう。今日の朝から突然現れて、佐奈にしか見えなくて。
佐奈は学校に着くと、急いで自転車を止めて教室に向かった。遅刻ギリギリのせいか、既に教室の中にはほとんどの生徒がいて、友達と駄弁っていた。佐奈は自分の席に座ると、ふーっと深呼吸をする。それから後ろを振り向いて、左手を見せた。
「見える? 赤い糸」
「え?」
あ、見えてないっぽい。「ごめん、何でもない」と言って誤魔化すと、佐奈は前を向いた。やっぱり佐奈にしか見えていないんだ、この赤い糸は。じゃあこれはやっぱり運命の赤い糸?
いやいや、現実主義の思想を忘れるな。赤い糸は全部理想。現実には存在しない。この赤い糸はきっと、ただの幻覚だ。そう、幻覚。だって佐奈にしか見えないなんて可笑しいに決まってる。佐奈は幻覚を見ているのだ。それなら全て辻褄が合う。そう考えたら、妙に心のモヤモヤが晴れた気がした。うん、これは幻覚なんだ。ただの理想、夢。現実とはかけ離れた世界線にあるモノ。
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