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「先生…すみません。今日は千堂で通してください」
上杉さんはまた小声で言った。
私は苦笑しながらコクリと頷く。
よくよく考えてみると、この会場に来ているのは皆、カップルで、人のパートナーに手を出してくるような心配は少ない。
私たちの様なニセモノが居るのであれば話は別だが。
「とりあえず、新郎新婦に挨拶に行きましょうか…」
上杉さんは私に腕を絡めて会場の中を歩く。
これをやられるとドキドキするのだが、今日は既に他の要因でドキドキしているので、何も感じない気がする。
通り掛かったお店のボーイに上杉さんは声を掛けた。
「すみません。車なのでジンジャーエールを一つ下さい」
ボーイは微笑み頭を下げると、直ぐにジンジャーエールのグラスとシャンパングラスを持って来た。
私の車で会場までやって来た。
したがって私がジンジャーエールという事になる。
私と上杉さんはそのグラスを受け取り、新郎新婦の傍まで行く。
しかし、その新郎新婦の周囲は大渋滞で、なかなか近付けない様子だった。
上杉さんはその集団に割って入る様にして新郎新婦の傍に立った。
私もそれに引っ張られる様に新郎新婦の前に出る。
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