『駅嫌い部屋』

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男は、引っ越しをするためにアパートを探していた。 安いアパートだったら、なんでもかまわないという条件で探すと、一件だけ好条件のアパートが見つかった。 築年数は経っているが、なかなかの良い物件で、月なんと破格の5000円 そのアパートで一部屋だけ特別価格だという。 『駅まで徒歩3分』というところに惹かれたが、 その下にただし書きがしてあり、 『※駅嫌い部屋です』 とある。 その意味がよくわからず聞いてみるが、 話をごまかされよくわからない。 とにかく『やめたほうがいい、お客さんにはおすすめしない』と 言われるが、無理くり契約をする。 アパート探しも疲れたしこれ以上の好条件はないので、そのアパートに決めてしまった。 初日は確かに駅まで徒歩3分だったが、 しだいに距離が離れているような気がした。 いささか場所や周りの風景も違う。 そこで、気づいた。 この部屋、駅から少しずつ遠ざかっているなと思った。 やがて1ヶ月が、過ぎると隣の町に移動している。 だんだん離れていくスパンが速くなり、 友達から『おまえのアパートどこにあるんだ?』という自分を探しているという電話が入る。 いつの間にか失踪届けが出されており、 久しぶりに部屋の外に出てみて、気づく。 どこかも知らない山の中にいて、 『ここはどこだ!』と言いながら男は、山中で途方に暮れながら、 『駅嫌い部屋』の意味を思い知るのであった。 『駅周辺の開発で、もうじきアパートが取り壊される』ということにアパートが感づき、自ら逃げているのだろう。 周囲は、見たこともない植物が群生する前人未到のジャングルであった。
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