『名役者』

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売れない役者の松浦は、東京に上京してきて四年。たいした役ももらえず劇団をやめて田舎に帰ろうとしていた。 そして、金銭に困り空き巣に入ることにした。 だが、同じように金銭を狙った泥棒と家の中で鉢合わせをしてしまう。 どうやら、客のようだったので、 先に泥棒に入った人間は親戚のふりをする。 遅れてやって来た泥棒は友人のふりをする。 二人はお互いの正体を知らない。 親戚と友人という嘘を互いに疑いもなく信じた。 やがてどちらかが帰るのを待ったがどちらも帰ろうとはしない。 やがて家主を名乗る男がやって来る。 二人は土壇場になりお互いの素性を明かし、結託して家主を騙そうとした。 「ガス点検」を理由に部屋に再び侵入した二人は家主に隠れて通帳と印鑑を持ち逃げした。 その通帳でお金をおろそうと銀行に行ったところを逮捕された。 その家は、実験施設で、家主は専門の演技派の警察で泥棒を誘(おび)き寄せるための実験的な役割を担う場所ということで実験第一号の犠牲になったのが彼ら二人だというのである。 二人に比べれば二枚も三枚も格上の名演技を警察は、披露したわけである。 後に、『演技課』という部署ができるまでになった。 とんだ名役者がいたものである。 松浦は、その演技力を買われ、出所後に演技課にスカウトされたという。 もちろん泥棒をだます泥棒役で。
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