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「頼むよハカジ。一緒に夢を掴もうぜ?」
「誰がハカジだ。僕はそんな呼び方されたことないし、君と話すのもほとんど初めてに近いじゃないか」
高校二年生、夏休みに入る二日前。僕は誰もいないはずの昼休みの図書室で、夏休み中に読み進める本を物色していた。
誰もいないと思っていたのに、一人の大柄な生徒が忍び足で背後に近づいてきて、僕を驚かせるように「わっ」と声を上げた。驚きで腰が抜けた僕に対して、笑いながら話しかけてきたのは、クラス一のお調子者、志田 諭吉(しだ ゆきち)だった。
「だって、お前の名前は袴田 甚介(はかまだ じんすけ)だろ? 略してハカジじゃん」
「初めて話した相手を、気安くあだ名で呼ぶなよ」
「話すのは初めてじゃないだろ。前に一回トイレで話したじゃないか」
「ああ。次の授業なんだっけって、君が聞いてきたんだよな? あんなの一回にカウントされないよ」
「そんなのどうでもいいからさ。とにかく、俺と小説家になろうぜ!」
僕と話すのを面倒くさそうにする割に、きちんと自分の要求は述べる。こんな自分勝手なやつのことを、僕は心の底から軽蔑していた。
二年生で同じクラスになって、初めてユキチの存在を認知した瞬間から、どうにもいけ好かないやつだと思っていたのに……まさか、僕のことを誘ってくるなんて。
何が何だか、理解できていない。どうして、こんなガサツな男に、小説家になろうと誘われなければいけないのか。
「僕を誘う意味がわからないよ。第一、君が小説家になんかなれるわけないだろう」
「最初から決めつけるなよ。それに、俺一人じゃなくて、二人で作品を書こうって言ってんの!」
「はぁ? 共作ってことか? 僕と君が? あり得ないだろ。僕は年間に百冊以上読む読書家だけど、君は本に触れてこなかった人間じゃないか。君にできっこない」
僕はとにかく、クラスの人気者を気取っているこのポジティブ人間が、嫌いで仕方なかった。それに、向こうも僕のことを違う人種だと理解していると思っていたのに、簡単に接近してくるなんて。何か利用しようとしているとしか思えない。
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