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「そう敵対視するなよハカジ。俺は本気で小説家になりたいんだ。頭では色んなストーリーが浮かんでいるのに、俺にはそれを言葉にする文才がない」
「じゃあ諦めるんだな」
「諦めきれないんだよ! だから、クラス一の文才を誇るハカジに、声をかけたってわけ」
「迷惑な話だな。どうしてそんなに小説家になりたいんだ?」
「……この前一冊だけ、小説を読んだ。それは王道な青春小説だったんだけど、すげぇ刺さって……」
ユキチの顔は、いつの間にか綻んでいた。単純明快な理由だったけど、金儲けのためとか、モテたいからとか、そういう上っ面な理由ではなかったことが意外だった。
ユキチの話によると、その青春小説のおかげで、たった一度の人生を精一杯謳歌しようと思えたらしい。そして、『自分もこういう小説を書いてみたい』という安直な夢を抱いたのだ。
小説を書きたいと思っても文章にできない。そこで白羽の矢を立てたのが、読書感想文で賞を獲ったことのある、僕ということだ。
「まあいい。君が小説家になりたいのはわかった。その上で言わせてもらう。”断る”」
「何でだよ! 一緒に夢を掴もうぜ!?」
「いいか? 今は若者の活字離れが進んでいるし、娯楽の選択肢も広がっている。書籍を手にする人が減っていく中、何のセンスもない二人が挑んだって無謀なだけだ。僕は人生を棒に振りたくない」
「それでも本屋には、毎月たくさんの新作が置かれているだろう!? 熱意さえあれば、叶わない夢じゃないって!」
「熱意とか努力とかでどうこうできる問題じゃないんだよ。センスが必要な世界なの。そんなに書きたかったら、他の人を誘ってくれ」
「おい、ハカジ!?」
これ以上は時間の無駄だと判断した僕は、熱を保っているユキチを置き去りにして、図書室を去ろうとした。コツコツと歩いて出入り口まで向かう僕の背中に、ユキチはまだ声をかけてくる。
……これでいい。友達がいない僕のことを誘うなんて、その時点でおかしな話だ。きっと僕のことを利用したいに決まっている。
このままひたすらに勉強して、偏差値の高い大学に行き、そして一流企業に就職する。それでいいのだ。
仲間なんていらない。ユキチの呼びかけを無視して外へ出ようとすると、薄気味悪い女の声が僕の足を止めた。
「いいじゃない。一緒に小説書いてあげれば……」
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