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そこまで大きな図書室ではない。だから誰かがいるならすぐにわかる。だけど僕は、今の今までその女の子の存在に気づかなかった。
出入り口から一番近くにある一人用の席に、その女の子は座っていた。僕はその女の子の顔を、学校で一度も見たことがない。
「君は……誰? いつからそこにいたの?」
「え、嘘? あなた……私が見えるの?」
質問に質問で返される。しかも言動が怪しい。私が見えるのって……まるで幽霊が使うような台詞だ。
首を傾げながら「見えるよ」と答えると、女の子はキャッキャッと飛び跳ねた。
その瞬間、僕は目を疑った。席を立ったその女の子の体が、半分透けて見えたのだ……。
「君は一体……?」
目を擦りながら女の子の正体を捉えようとすると、後ろからユキチがうるさい足音で近づいてきた。
こんな状況でも、ユキチのガサツ加減に腹が立つ。
「ハカジ、それまじかよ!? もしかして、幽霊ですか?」
「え? あなたまで私が見えるの?」
今度はユキチの質問に質問で返した。幽霊? そんなわけ……ないはずだけど、でもそうなのか。全然状況が飲み込めない。
驚きで声を失っている僕とは対照的に、物珍しさに興味津々のユキチが女の子と話し始めてくれた。
「もちろん見えるよ! でもその言い草だと、もしかして見えることができるの俺らだけ?」
「……ええ。誰も私の言葉なんか聞いてくれないし、誰も私に気づいてはくれなかった」
「それって、幽霊だからだよね?」
「はっきり言わないでよ。そうだけど」
「まじかー! 俺初めてだわ。幽霊見るの」
当たり前の感想を口にしたユキチに、思わず「そりゃそうだろ」と突っ込んでしまった。
幽霊が、この図書室に住み着いていた? 毎日のようにこの図書室を訪れていたのに、今までは見えることができなかった。
どうして急に、幽霊の存在を捉えることができたのか。不思議な現状に、思考回路が停止してしまった。
「おいハカジ。お前いつも図書室にいたよな? どうして知らなかったんだ?」
「それは、僕にもわからない。今日、急に見えるようになったんだ。何が起きているのか……」
困惑気味な僕の顔を見た女の子が、クスクスと笑い出す。冷や汗をかいている僕と違って、女の子はこの状況を楽しんでいるみたいだった。
ひとまず、女の子について知らなければ、前に進めない。そう考えていたのはユキチも一緒だったみたいで、率先して会話をしてくれた。
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