1.私が幸せになるべき理由

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1.私が幸せになるべき理由

加奈(かな)ちゃん、今度こそうまくいくといいわねぇ。この前も結納直前でダメになっちゃったじゃない? またそんなことにならないといいんだけど」  縁起でもない母の台詞に思わず眉間に皺を寄せる。 「母さん、そんなこと言わないでよ。あれはうまくいかなくてよかったの! 新婚早々夫が失業なんて冗談じゃないわ」  私、高橋(たかはし)加奈二十九歳はただいま絶賛婚活中。三十歳になるまでには何とか結婚したいと思い一念発起して結婚相談所に入会した。自分で言うのも何だがまだまだ二十代前半で通るし見た目も悪くないと思う。なのにいつもうまくいきかけるとアクシデントが起きてダメになる。前の人もそうだった。母の言う通りトントン拍子に話が進み、さぁ結納という段で相手の会社が倒産。当然結婚話は白紙になってしまった。 「まぁ、ご縁がなかったってことかしらね。でも今度の人は公務員でお仕事も安定してるし安心ね」  母の言葉に私は頷く。 「あんたはちゃんと幸せにならないと。美咲(みさき)の分もね」  美咲、という言葉に私はリビングに置かれた家族写真に目を遣る。まだ小学生の時の写真だ。写っているのは両親と私そして二つ年下の妹、美咲。 「うん、わかってる。そうよね美咲の分まで、ね」  写真の中で微笑む妹はずっと小学三年生のまま年を取ることはない。美咲はまさに“天使のような”という形容がピッタリの実に可愛らしい少女だった。父と母のいいところだけを配合し奇跡的にできあがったような容姿。私にとって自慢の妹。だが美人薄命というやつだろうか。美咲は小学三年生の時、水の事故で亡くなった。 「今夜また彼と会う約束してるから、頑張ってくるよ」  今回相談所から紹介されたのは斉藤(さいとう)(たかし)さん、三十五歳公務員。婚活市場ではかなりの人気物件といっていいだろう。細身の体型で身長は180cm以上あり、お堅い仕事をしているとは思えない爽やかで社交的な男性。少し明るめの髪に優しい笑顔。どうしてこんな男性が残っているのだろうと不思議に思う。彼曰く仕事が楽しくて気付けばこの年だった、そうだ。  私が入会している相談所はいろいろと規定が厳しく正式にカップルとして成立するまでは互いに連絡先を交換することを禁じている。連絡が取りたければ相談所のサイトを経由しないといけない。何とも面倒だが断りやすいというメリットもある。斉藤さんと会うのは今夜で三回目。そろそろ正式にカップル成立、といかないかと期待している。結婚相談所でカップル成立ということは、イコール結婚ということだ。そういう意味では普通の出会いより手っ取り早くていい。
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