1.私が幸せになるべき理由

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 五分前に待ち合わせ場所に到着すると斉藤さんは既にいた。 「ごめんなさい、お待たせして」 「いえいえ、僕も今来たとこですよ」  こんな人と結婚できたら幸せだよなぁと改めて思いドキドキする。 「じゃ、行きましょうか」  私たちは彼が予約しておいてくれたレストランで美味しい料理とお酒を楽しんだ。お互い少し酔いがまわったところで少し探りを入れてみる。 「斉藤さんって、結婚式にこだわりとかってありますか?」  すると彼は少し頬を上気させ首を横に振った。 「いえいえ、僕は別にないですよ。高橋さんの好きなように決めてくれたらいいと思っています」  一気に鼓動が速まったのはお酒のせいじゃない。気に入ってもらえていると思ってはいたが、まだ正式に返事をもらったわけではなかった。“それは正式にOKがもらえたってこと?”そう聞きたかったが何となくタイミングを逃してしまいワイングラスに口をつける。 「結婚式の主役は何といっても花嫁さんですからね。女性は憧れるものなのでしょ? ドレスとか」  そう言って微笑む彼に私は大きく首を縦に振る。 「はい、私も昔からウェディングドレスに憧れてて。女の子は皆そうかもしれませんが、小さい頃よく妹と一緒にお嫁さんごっこをしました。ドレスなんかないからベッドのシーツを体に巻き付けたりしてね。懐かしいなぁ」 「亡くなった妹さん?」  妹のことは彼にも話をしてあった。 「ええ。本当に可愛らしい子だったんです。ウェディングドレスもさぞかし似合ったろうになぁ……」  思わず言葉に詰まると彼は気遣わし気に見つめてくる。暗くなりかけた場の空気を変えようと私は慌てて首を横に振った。 「いやいや、落ち込んでも仕方ないですよね。私、妹の分まで幸せにならなきゃって思うようにしてるんです。しょんぼりしてるお姉ちゃんなんて見たくないでしょうから」  そうだね、と彼は優しい眼差しで頷いた。そう、今度こそ幸せになるんだ。それから小一時間程レストランで過ごし私たちは店を出ることにした。 「ちょっとお手洗い行ってきますね」 「うん、じゃあお勘定済ませて外で待ってるよ」  自分の分を払おうと財布を出しかけたが彼は笑って首を横に振り席を立った。私は化粧室で念入りに化粧直しをする。明日は休日だ。もう一軒ぐらい行ってもいいだろう。店の外に出ると斉藤さんはぼんやりと空を見上げていた。「お待たせ」と言い彼の左手をそっと握る。柔らかく温かな彼の手に触れドキドキと胸が高鳴った。びくっと身を震わせたる彼。だがゆっくりと振り向いた彼の顔は何だかひどく青ざめている。具合でも悪いのだろうか。私は慌てて手を離した。 「あ、ごめんなさい。大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」  彼は青白い顔で視線を彷徨わせる。これは本格的に具合が悪そうだ。 「い、いえ。ああ、少し飲み過ぎたかもしれません。最近仕事が忙しくて疲れてたのかも。申し訳ありませんが今日はここで」  残念だったが体調不良では仕方ない。私たちは店先で別れた。
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