2.結婚できない理由

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2.結婚できない理由

 熱いシャワーを浴びて少し気持ちが落ち着いた俺はパソコンの電源を入れる。古い型なので起動までに少し時間がかかるが仕方ない。その間にビールをグラスに注ぎ一気に飲み干した。 「あーあ、しかし驚いたな。いい子だと思ったのに、残念」  ひとり暮らしが長いせいか、ついつい独り言が多くなる。 「早めに断っとかないとな」  結婚相談所に入会してそろそろ一年。実家の母から結婚はまだなのかと口やかましく言われ、入会申込書まで送られてきたので渋々入会した。母の繰り言など放っておいてもよかったのだがそうすると勝手に見合い話などを持ってきそうでそれはそれで煩わしい。確かに俺ももう今年で三十五歳。早く孫の顔が見たいと言われても仕方のない年齢かもしれない。  今まで相談所から紹介され何人かの女性に会った。まぁうまくいかなかったわけだが、その理由は価値観の相違であったり諸々の条件が合わなかったりいろいろだ。もちろん中にはいいなと思える女性もいた。いたにはいたのだが、そういう女性に限って……。 「憑いてたりするんだよなぁ」  生きた人間からの嫉妬や憎悪、あるいは死者による怨恨や執着の念。俺はそういった気配を敏感に察知してしまう。所謂“霊感”ってやつがあるようだ。俺の祖母が霊媒師のようなことをしていたと聞いたことがあるから血筋なのかもしれない。 「サイトから紹介される相手ってホント何か背負ってる人が多いんだよなぁ」  むしろ俺の妙な力がそういう存在を引き寄せてしまうのかもしれない。ってことは俺のせいか? まぁとにかくそういう相手とはなるべくお近づきになりたくないので一度会っただけでお断りさせてもらっている。最近では写真を見ただけで何となく“ヤバそう”な相手を識別できるようになっていた。なのに……。 「今回はホント気付かなかった」  今夜会っていたのは高橋加奈さん、二十九歳。明るくてかわいらしい女性だった。写真からも嫌な感じはしない。実際に会ってみると実に魅力的な女性だった。こんな人ならすぐに相手など見つかるだろうに、そう思って尋ねると確かに結婚直前まで進んだことは何度かあるんです、と正直に彼女は答えた。 ――でもね、最後の最後でダメになっちゃって。ご縁がなかったんですかね。  その時はそんなものかなと思っていたが今夜彼女に手を握られた時、理由がハッキリとわかった。背後に漂う恐ろしい恨みの念。そう、彼女が今まで結婚できなかったのは“あれ”に邪魔されていたのだろう。俺はぼんやりと今夜のことを思い出す。
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