7人が本棚に入れています
本棚に追加
【3】Liz
私にとって、雨の朝は昔から特別だった。
目が覚めて聞こえる雨音。晴れた朝の小鳥のさえずりもいいけれど、ぽつぽつと雨が地面に当たる音が聞こえると自然と顔がほころぶ。
だって、雨が降る朝は愛するあの人が必ず隣にいるんだもの。
ほら今日も、雨音と一緒に聞こえてくるいつものいびき。手を伸ばすとそこには、あの人の柔らかい髪の毛があった。その髪に指を絡めてくしゃっと頭を撫でると、眠りを邪魔された彼は少し鬱陶しそうに身をよじらせる。
「んが……っ……んん~……?」
「おはよう、ラレイル」
「ん……リジー、おはよ……」
私の夫、ラレイルはうっすらと目を開け、私にキスをした。寝ぼけていても正確に私の唇を捉えてくるから、これは一つの特技というか……もはや習性かしら?
「何時に帰ってきたの?」
「んー、3時ごろ?かな?ふぁああぁ……」
今は朝の5時。さすがに2時間しか寝ていないのなら眠たいのでしょう、大きなあくびを一つしたかと思ったら、そのまま彼は目を閉じて大人しくなった。
ラレイルはこの国の王だけど、王座に座っているだけの国王ではない。国王としての公務に加えて、自らが動かないといけない任務も多いから城を不在にすることも多かった。
彼の一日は、早朝、私が起きる前から始まる。朝方は主に視察で色々なところを飛び回り、朝食後に城へ戻ってくる。日中は城で公務をこなし、早めの夕食を終えるとまた出かけてしまう。この時、公務や任務でちゃんと仕事をしていることもあれば、ぶっちゃけ飲みに行っていることも多いわね。(ちなみに私も一緒にいることもあるわよ)
夜は大体私が寝た後に帰ってきて、朝私が起きる前に出掛けていく……これの繰り返し。
夫婦すれ違いの生活と言うほどではなく、良く言えばつかず離れず、ちょうどいい距離感が気楽なものよ。
でもこの距離感については最近夫婦で話し合ったの。もう少し一緒に過ごしましょうってね。……実は、少し前に色々あって、1か月くらい口をきかないことがあったのよ。まぁ、その結果としてお互いの愛情を確かめ合うことができたかしら♡(ふふ、それはまた別の話……♪)
そして普段がこういう関係だからこそ、雨が降る朝がより特別なものになる。
なぜかって?
ラレイルにとって雨の朝はいつもオフ。だからこうしてゆっくり一緒に起きることができる。私はそれが嬉しかった。
私が喜ぶことを知っているから雨の日は休んで、朝もゆっくり過ごすのか、それともラレイルがゆっくりしてくれるから私が雨の朝を好きになったのかは……そうねぇ、卵が先か、鶏が先かって話かしら。
私のすぐ隣で寝息を立てる彼を見られるのは、なんて幸せなことかしら。普段彼が忙しくしていることを知っているから、こういう日を大切にしないとね。
「……ふふ、もう少し眠ったらいいわ、ラレイル」
そう言って私は彼のおでこにキスをした。その瞬間、私の体に回されたラレイルの腕に力が入って私はあっという間に彼の方へ引き寄せられた。
「きゃっ!」
「……寝るなんて、もったいないでしょ。せっかくリジーちゃんとゆっくりできるのに。ほらベイビー、もっとこっちにおいで……♡」
あらら、スイッチをオンにしちゃったかしら?
……なーんて、実はちょっと期待してたりして。それに遅かれ早かれ、あなたもこうするつもりだったでしょう?ねぇ、ダーリン?
雨の朝は私たちがゆっくりすることを、城の使用人たちもちゃんと分かってくれている。だから誰も、朝のお茶を持ってくることも、食事のために呼びに来ることもしない。二人だけの時間よ。
私は雨の朝が好き。心地よい雨音に加えて、聞こえてくるのは私たちが愛し合う甘い音だけだもの。
《The End》
最初のコメントを投稿しよう!