【1】Sam

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【1】Sam

9e60ae5f-9dd0-49d3-8f38-3d640f20269a  私は雨の昼間が嫌いよ。  特に今日みたいな、真っ黒な雲から降り注ぐ土砂降りの雨音が聞こえると、否が応でもあの日の記憶が呼び覚まされる。  あの日は……愛する人が死んだと聞かされた日だった。  彼、ルーリオと私は同じ魔法学校で教師をしていた。お互いに愛し合っていたわ。  でも両親は認めてくれなかった。ただ気に入らないという理由で。  周囲の反対を押し切って結婚した私たちは、双方の親から絶縁されただけでなく、彼の両親の圧力によって教職という道を諦めなければならなくなったの。私はともかく、彼はとても有望視された教師だったというのに。  私と結婚していなければきっとこんなことにはならなかったかもしれない。  そう思うだけで、私は胸が痛んだ。  でもそんな私に、ルーリオは笑って言ってくれたわ。 「大丈夫だよ。仕事なんていくらでもあるし。ほら、ウェロスさんのことは知ってるだろう?彼が僕に仕事を紹介してくれるんだ」  ウェロスは学校の同僚で、私たちのことをずっと気にかけてくれていた人よ。彼には世話になったけど、ルーリオのを知らせに来たのも彼だったから、私はもう思い出したくもないわ。 「……サム。贅沢はできないけど、静かに暮らしていこう。君と、僕と……生まれてくる子どもと一緒に生きよう」  ……それから間もなく、ルーリオは紹介してもらった仕事の中で、不慮の事故により亡くなった。  あの日、激しい雨が降る中、雷の音と共にやってきたウェロスの姿は今でも覚えているわ。すぐに分かったの。何か悪いことが起きたんだって。でも彼の言葉はもう覚えていない。ルーリオの死を聞かされた瞬間、私は意識を失ったんですもの。  目が覚めると私はベッドの上だった。お腹に痛みと違和感を感じて気が付いた。  愛する彼との子どもも、もうお腹にはいなかった。  ルーリオを失っただけでなく、子どもまで奪われてしまったあの雨の日。  だから私は、今でもこんな激しい雨音を聞くと自然と体がこわばってしまうのよね。  嫌だ、光ったわ。  いち、に、と数えるまでもなく、すぐに大きな雷鳴が響き渡った。 「きゃああああ!!」 「きゃああああ!?」  大きな雷の音と、ドアが急に開く音と、女性の悲鳴とのトリプルコンボで、私の心臓は文字通り喉から飛び出るかと思ったわ。 「サム!?大丈夫!?」  部屋へ入ってきたのはこの国の王女、トーランスだった。最初に悲鳴を上げたのも彼女ね。 「大丈夫って……トーランス!それはこっちの台詞よ!もう、大きな悲鳴を出して、びっくりさせないで!!」 「ごめんなさい~雷が聞こえてきたから、サムのことが心配になって……」  彼女は私の事情を知っている数少ない人物の一人よ。私がこの国に仕えるようになって、彼女の教育係もしてきたから付き合いはもう長い。私のことを心配して来てくれたのね。 「ふふ、それはありがとう。で、思った以上に大きな雷の音に、自分がびっくりしちゃったというわけね?」 「あはは、そう。さすがにあんな大きな音にはびっくりするわ。そうだ!ねぇ、天気もまだ回復しないし、母上も誘ってお茶にしない?きっと嫌なこと思い出さないくらい楽しくおしゃべりできるわ」  茶目っ気たっぷりにそう提案してくれる彼女を見ると、さっきまでの嫌な気持ちが嘘のように晴れていく。 「いいわね。あなたたちと一緒じゃないと飲めないような高級なお茶でもいただこうかしら?」 「そうしましょ!おいしいお菓子もあるみたいよ。一緒にいただきましょうよ♪」  今でも私は雨の昼間が嫌い。  でもこうして今、大切だと思える人たちとゆっくり過ごせるのはこの雨のおかげかもしれない。そう思ったら、この激しい雨音も少しは優しく聞こえるかもしれないわね。
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